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2019年12月のリサイタルの際に来場者に配布したパンフレットに掲載した文章です。

リサイタルで引退となった三人のサークル員が「ニューオルリンズジャズについて」をテーマに書きました。

1 ニューオリンズ・リバイバル期のミュージシャンたち / 浅野美来

2 渡米記 / 沼田遼太郎

 ニューオルリンズブラスバンド今昔 / 林田翔馬

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​渡米記

​沼田 遼太郎(基幹理工学部4年)

 3年生、いわゆるE年の終わり、僕は初めてニューオーリンズへと旅立った。2019年2月13日、ヒューストン国際空港にてニューオーリンズ ルイ・アームストロング空港へと向かう便の表示を見た時、現地へと到着しようとしているという高揚感に心を躍らせていたことは記憶に新しい。

 現地時間2月13日午後6時半、ついに空港へと降り立ち、ついにフレンチクオーターに到着した。演奏で毎日のように歌っていた曲にあるバーボンストリートは想像以上に騒がしく、まさに喧騒そのものだった。

 治安は逆立ちしてもいいとは言えないが、どの通りを歩いても音楽が聞こえ、多くの人がそれに耳を傾けている。その日は疲れていたので寝てしまったが、ここでの10日間に期待を抱かせるには十分過ぎる時間だった。

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Gerald French's Original Tuxedo Jazz Band

​来日したことのあるバンドでも現地では迫力が違った

 ニューオーリンズでは、ライブを見てお酒を飲んで寝るというある種の理想的な生活を送っていた。

 French Quaterという名前からも想像のつく通り、フランス風の街並みは何故か異臭はするもののとても趣があった。至るところでストリートミュージシャンたちが聴き慣れた音楽を演奏している。夜になればそこかしこにあるライブハウスで様々なアーティストが手軽な価格で演奏を行う。

 食事は全体的にカロリーが高めなものが多かったが、探せばあっさりとしたものもあり、特には困らなかった。食材を買って宿で作るなどもした。

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12個で3ドルとやけに安かった生牡蠣

​体調に自信がある時にお勧めする

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ベニエ(ドーナツに近い)専門店であるCafe Du Monde。

24時間営業しており、深夜や朝によく食べた。美味しい。

6ドル程度。

 ミュージシャンの多くは見知らぬ土地から来た我々に対してもとてもフレンドリーだった。ほとんどの方が会話や写真撮影などに応じてくれた。現地のプレイヤーの中には“Waseda?”と訊いてこられる方もいた。旅行客がお金を持っているというイメージあるだろうが、毎年この時期にサークルとして渡米を行っていることや、在学中ないし卒業後に現地へと渡りプロとして活躍されている方々の影響も大きいだろう。

 そのようなこともあり、とあるOBの方の紹介でPreservation Hall※でのライブ開演前、Joe Lastie※に、少しの時間ながらドラムを指導していただき、開演後もすぐ真横で演奏を見せていただけた。とても光栄な時間だった。

 

 ある日の昼間、疲れていたので宿で寝ている と何やら音楽が聞こえてきた。向かってみると、例にならって聴き慣れた曲を演奏するブラスバンドと楽しそうに踊っている人々がいた。しかし何故か違和感を感じた。少し近づいてみると、1人の大男が何かのパネルを掲げており、観客の多くが白い服を着ていた。さらに近づいてみると疑問は確信へと変わった。 男の持っていたパネルは1人の若い女の人の写真だった。セカンドライン※だ。部内で聞きYouTubeなどで見ていた通り、死者を明るく送り出すというのは本当だったのだ。傍らで泣いている人も居た。そして多くの人が歌を歌い、思い思いに亡くなった人への感謝や愛を叫んでいた。その風景はとてもオープンで、同時に日本のそれとは大きく異なっていた。この文化について我々は入部の際に先輩から聞かされるため、存在自体は知ってはいたが、実際に目にしてみると衝撃だった。現地の生々しい死生観に少し触れた日だった。

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 ハンバーガを食べまくった10日間、ずっと見てみたかったプレイヤーのライブを生で体感し、カジノで昼食代を溶かし、ストリートミュージシャンの多さとレベルの高さに圧倒された。街にはとてもハッピーな雰囲気が溢れ、以前渡米した先輩が「脳味噌が溶ける」と表現していたがまさにその通りだった。日本では体験できないあの雰囲気は、音楽をやるやらないに関わらず、老若男女一度体験してみることをお勧めする。

​セカンドラインの最後には空に向けて風船を飛ばしていた

※Preservation Hall;ニューオーリンズジャズの保存(Preservation)を目的に作られたライブハウス。観光地化しており、各国からの観光客が現地でジャズを聴く、というと真先に思い浮かぶ場所である。有名なプレイヤーも多数出演する。

※Joe Lastie;ドラマー。1958年生まれ。近年は主にPreservation HallやMaison Bourbonなどで演奏している。間近で見る彼の演奏には音楽への堅実さとその上に成り立つ柔軟さがあった。

※ブラスバンド;ここではN.O.スタイルのブラスバンドを指す。詳しくは林田のコラムを参照されたい。

※セカンドライン;現地独特の葬式のスタイル。日本とは違い、死者を明るいパレードで送り出し、有名な人の死の際には大通りを通行止めにして行うこともある。こちらも詳しくは林田のコラムを参照されたい。

Doreen Ketchens  When the Saints Go Marching In

曲は同じく「聖者の行進」です。

Doreen Ketchensはニューオルリンズで現在も活躍している超絶技巧クラリネット奏者です。

​この動画のように、フレンチクオーターのストリートでよくライブを行っています。

名前は同じ曲でも、プレイヤーや時代によって曲の雰囲気は大きく異なります。

様々な「ニューオルリンズジャズ」を聴くうちに、​お気に入りのプレイヤー、音楽のジャンルが必ず見つかるはずです。

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